47.NDM-1産生菌について 2010年11月1日掲載
2010年9月と10月初旬に日本国内の2か所の病院で相次いでNDM-1を産生する2種の腸内細菌(大腸菌と肺炎桿菌)が初めて検出され、新聞、テレビで大変な話題になりました。それ以前の報告では、2009年インドより帰国したスウェーデン人からNDM-1産生腸内細菌の発見と、インド・パキスタン・バングラデッシュにて広範囲なNDM-1産生菌の蔓延の事実が明らかにされました。他にも旅行者が、インドからイギリス国内にこの菌を持ち込み、イギリス国内で拡がり大きな社会問題となりました。その様な事例が世界各国で次々に見られ、今や日本を含め全世界な規模でNDM-1産生菌の拡大が心配されています。
(薬剤耐性菌について)抗菌剤は細菌の構成物(酵素、遺伝子、膜など)に』作用して、菌を増殖させずに菌を殺すという働きがあります。その一方で、菌は抗菌剤から身を守る方として、抗菌剤への抵抗性(薬剤耐性)獲得する方法を自然に身につけています。例えば、細菌は抗菌剤が細胞内に入り込めないようにする/菌体内に入った抗菌剤を吐き出す/薬が作用する部位を変化させる/薬を分解する酵素を作る/薬を変化させて効かなくする/などの方法があります。さらには他の菌が作った薬剤耐性の遺伝子情報(伝達性プラズミド)を簡単に受け継いで自分の体内に組み込み、新たな耐性化方法を身につける事が知られています。この様な耐性化により数種類の抗菌剤を無効にしてしまうのが多剤耐性菌です。今回のNDM-1産生菌も多剤耐性菌の1種です。
(メタロβラクタマーゼとNDM-1)耐性化の中で、抗菌剤を分解する方法がありますが、その中でも全てのβラクタム剤(ペニシリン系・セフェム系・カルバペネム系薬剤)を分解する酵素メタロβ(ベータ)ラクタマーゼというものがあります。この特性を持つ菌として緑膿菌やアシネトバクターが多く報告されています。NDM-1はメタロβラクタマーゼの1種で、名前の由来はインドの「ニューデリーにて分離されたメタロβラクタマーゼ(New Delhi metallo-β-latamase)から来ています。NDM-1を産生する遺伝子は前述の通り、プラズミドを介して細菌間で伝達が行われます。
(NDM-1産生菌の問題点)NDM-1を産生する菌の問題点として、産生菌は同時にアミノグリゴシド系やフルオロキノロン系薬剤にも耐性を示す場合が多く、非常に広範囲な耐性を持っています。これらの菌による感染症の治療におおいて、効果的な抗菌剤が殆どないため、治療に難渋することが予想されます。また、これまでメタロβ(ベータ)ラクタマーゼ産生菌は緑膿菌やアシネトバクターなどの病院内での日和見細菌(#1)のみに見られましたが、NDM-1産生菌は一般の腸内細菌である大腸菌、肺炎桿菌にも見られるようになったことが大きな驚きでした。つまり、多剤耐性菌が病院内を越えて市中、国外まで容易に運ばれ、さらにそこからプラズミドを介して急速に耐性菌が増加してしまう危険性が大きいことを意味しています。そうなると従来の感染予防策に加え、新たな対策が必要をなります。
(感染予防)多剤耐性菌であっても病原性(ヒトへの悪影響を及ぼす力)が強いわけではありませんので、健常者が恐れる必要はありません。病院内での対策としては従来通り、充分な手洗いや手袋の適正使用などの標準予防策の徹底が最も重要で、感染者から菌が分離されたら接触感染予防策の対象になります。
(#1)日和見細菌:健常者が感染しても発症しないとされる病原性の弱い細菌でも、免疫力が著しく低下した状態の者に感染すると症状を引き起こす事を日和見感染と言い、その様な細菌を日和見細菌といいます。